ルークは居なくなったのではないと言う。
判ってる、アッシュと一つになったのでしょうと言えば、そうではないと返って来た。
ルークはアッシュの中に、本来の元素として戻っただけなのだ。記憶の継承はあるかもしれない。だが感情の継承はない。だから、彼にルークを見出してはいけないのだという。
アッシュの言う『約束』は、ルークとの、『約束』。
月の光で咲く花の香りが満ちた丘で、ルークではない彼に近づけないまま立ち尽くしていると、彼はゆっくりと歩を進め、そしてティアの目の前で立ち止まる。
音のない流れるような動作で、何か本のようなものが差し出された。
見覚えのあるそれに、思わず奪うようにしてそれを受け取る。
表紙を指先で触れる。
涙がまた、零れた。
これを最初に目にしたのはもう、随分と昔のことだ。
あの時は何も判っていなかったし、何が起こるかすら、誰も知らなかった。
彼がつけていた日記。
彼が残していったもの。
存在していた証。旅の間、途切れることなく綴られた、彼の全て。
彼はとても苦しんで、ティア自身も追い詰めた。
本当は7歳の子供、でも実際は17歳の、いやそれ以上の判断を求められ、そして全世界が、彼の死を望んだ。
彼は他人のいないところで、己の壊れそうなこころを抱えて泣いた。
そして。
『俺、今が一番幸せな気がする』
そう、ティアに笑って告げた。
人並みに幸せな時間など、彼には一度も用意されていなかったのに。
けれど、なんて彼の旅は、光に輝いているのだろう。
こちらが恥ずかしくなるくらいに。愛おしくて堪らなくなるくらいに。
生きている。
彼は精一杯、生きていた。
彼の生き様は、ティア自身に力と眩い光を齎し、兄と、教官と戦う決意を与えてくれた。
いつの間にか、彼は私の支えだった。
あんなに、何も知らないと、見下して詰ったことだって少なくないのに。
「――私、この日記と一緒に帰ります」
まるでそれが彼であるかのような温かさを感じて、胸に抱きしめた。
涙が零れる。
ああもう、これで最後にしなくては。
彼は還って来たのだ、自分だけ泣いていてもどうしようもない。
私も、変わらなくては。
「おかえりなさい……『ルーク』」
あなたのくれた光で、私は生きています。
end.