怖い話

(ジェイドのアッシュ弄り。ルークの居ないジェイルク?)

 

余り、ルークを罵る、などということはしない方が良いですよ。

貴方の『オリジナルルークである』という認識はルークが居てこそ成り立っている訳ですが、貴方もこんな噂は聞いたことがあるんじゃありませんか?

軍の中では有名な怪談話の一つですからね。特に、特務師団なんて場所に所属する貴方なら、ご存知でしょう。

鏡の前で『お前は誰だ』と自分に向けて言い続けた人間がどうなるか。

――冗談ですよ。

実際、そんなに簡単に暗示に掛かる不安定な人も居ませんしね。

アレは新兵を怖がらせる一種の通過儀礼みたいなものですから。

しかし、鏡に向かって『屑』だの『劣化』だの言い続けてみたら、どうなるでしょうね?

さぞかし、己が屑や劣化した価値のない存在に思えてくることでしょう。

そうそう、人間という物は、鏡で己の姿を映し出した時初めて、自分というものを強く認識するらしいですよ。

考えてみれば、私たちは鏡がなければ自分の姿を客観的に捉えることは難しい。『他人に囲まれたの中の自分』とは違う意味で、この説は正しいと言えます。

ああ、この話を貴方にする意味は特にありませんよ。

ただ、貴方だけではなくて、ルークにとっても貴方が鏡だと言うことを、忘れがちのようですから。

ルークとて、貴方を不快に感じることがあって当然だと、お忘れなく。

……鏡の向こうの自分が、確実に成長して行くのが――自分を置いていくのが許せませんか?

いや、違いますね――恐怖でしょうか。

もしくは絶望?

写し返してくれる存在が居なくなって、混乱しているのかも知れませんね?

――どうしました、顔色が悪いようですが、どこか具合でも悪いのですか?

ああどうやら、貴方の方が、呪いに掛かってしまったようです。

やれやれ、お可哀想に……自業自得だと思いますけどね。

――さて、お訊きしましょうか。

貴方は一体、『誰』ですか?

end.

以前都市伝説ブームっぽい時に、書いたモノ。

望むもの

(ルーク→アッシュ)

 

雲の隙間から光が差して、柱のように延びている様を『天使の階段』というのだと、教えてくれたのはガイだった。

ほら見てみろよ。

そう言って、空の向こうを指し示してくれたのは確か旅が始まって間もない頃で、俺にとってはまるで宝物を見つけたみたいに俺に教えてくれる、ガイの笑顔の方が眩しいくらいで。

綺麗なものを簡単に言葉に出せるガイが、少しだけ、うらやましいような気持ちになったことを覚えてる。

――溶けていく。

体だけじゃなくて俺の思考はどんどん溶けていって、解放されたローレライの名残か、この場に満ちている第七音素に混ざっていく。

色々欲しかったし、したいこともあった。

自由とか、『俺』だとか、償いとか、ヴァン師匠に認めて貰うとか、アッシュに返したいとか――死にたくないとか。

でも、今は返すものも残ってないし、何より渡す相手がいなくなってしまった。

視界に広がる金色の光に包まれている中、その隙間から別の…陽の光が射している。

その道は、上へと誘っているようだった。

ああ、天使の階段だ。

これをずっと上って行けば、音譜帯に着くのかな。

そう思った瞬間、後ろから強い力で腕を引っ張られた。

まだ引っ張られる腕があることに驚いたし、ここに俺以外の誰かがいるなんて思ってなくて、更に驚いて背後を振り返れば、何故かアッシュが凄く怒った顔で俺を睨んでいた。

それで俺はもう、これ以上ないくらい驚いた。

一生分というなら、もうこれが最初で最後だ。

生きてる。

――アッシュが生きてる!

――っなにしてやがる、この屑が!」

俺が驚いて動けずにいれば、アッシュはいつものようにそう怒鳴った。

どうしてアッシュが、そもそもどうやって。

そんな考えで頭の中が一杯になった隙を突いて、アッシュはまるでここがどういう場所か判っているみたいに俺の腕を掴んだまま、ぐいぐいとどこかへ俺を連れて行く。

そして、突然の浮遊感。

次の瞬間落ちてる、と思ったのは隣りに並ぶアッシュの髪や服がそう、たなびいていたから。

ああ、俺音符帯に行かなくてよかったのかな。

俺はこのまま下に落ちて、どうなるんだろう?

そう思うけど。

いつの間にか、まるで離れないとでもいうようにアッシュの手がしっかりと、てのひらを合わせて俺の手と固く結ばれてたから。

彼が俺の命を惜しんでくれるだけで。

――俺はもう、何も要らない。

 

end.

かみさまはいない

(ルクティア)

 

こんな時は誰に祈ったら良いのだろう。

ユリアでもない、じゃあローレライか。

なあ、ティア。

全部戻る。今なら判る。

アッシュから奪ったものは全てアッシュに返すことが出来る。

居場所も、力も、命も。

俺の望みのひとつ。俺はアッシュに戻したかった。全てを。

俺には何も残らないけれど、『俺』は。

――『俺』は第七音素になって世界に還るんだ。

いつかお前のフォンスロットを通じて。

お前のところに。

必ず、帰るよ。

 

end.

いつかそのこころを温めるから、待っていて。