49.いつか言いたかった言葉
(ジェイド→プラチナ、ジェイド死亡ED)
今まで色んなことをやって来た。
元々あの天上で居た時すら、お綺麗なもんじゃなかった。
純粋な存在であり続けることを望まれていたのに、あの息苦しい場所で生き続けるのには綺麗ではいられない矛盾を抱えていた。
女も男も騙したし、使えるものは情でも何でも使った。蹴落とした相手がどうなろうと弱いヤツが馬鹿なんだと蔑みだってした。それでも奈落に落ちるのはおぞましいと思っていた。
奈落に落ちたら落ちたで、よりいっそう失うものなどないのだから、魔人相手にためらいだとかは余計になくなっていったけれど。
それにおぞましいと思っていた対象を騙したり殺したりするのは、天上の時よりも気が確かに楽だったのだ。
――奈落も、天上とそう変わらない生き物が生活していることに気が付くくらいには、長い時間を過ごしてしまったが。
だから、ああ。
今、目の前にいる美しい人が。
涙も慈しみも、天上で綺麗だと言われていたものなどひとつも知らないはずの、その瞳で血に塗れ床にゴミのように横たわる自分を見ているから。
傷つけて裏切ってまた更に傷つけたのに、それでも赦そうとするから。
これが昔、よく聞かされていた神が齎した『罰』とやらなのかと自嘲する。
神が望んでいた、綺麗で居続けなかったことへの罰。
指先一つを動かすことも出来ないのだから、そうとう酷い状態なのだろうが、もう何も感じないからどうでもいい。
純白のマントが、服が血で汚れるのもいとわず、自分の傍らに寄って見詰めてくるその顔に、視線に、ふ、と思い出す。
いつか言いたかった言葉があった。
そしてその言葉はけして、自分が口にしてはならないものだった。
赦されてはいけない。
だからどうか憎んで、夜も眠れないほどに憎んで恨んでしまうといい。
「あなたに、―― 呪いを」
最期に幾ら何でもこれはないだろうと呆れながら。
そしてこの言葉に傷つくのも自分だけなのだと、理解していながら。
差し伸べられた赦しを、彼からの未練を、自分で断ち切った。
目を閉じたのは、断ち切った瞬間に訪れた絶望から逃れるためか。
――いつか言いたかった言葉があった。
それを伝えられないことは、もうずっと前に判っていた。
end.