26.夢みたいに幸せ

※『JPパラレル日記リレー』の、『隣のお兄さん』(学生さんと幼稚園児)設定です。

 さっきから、眼鏡を不思議そうに見ている。

 あまり会話をする子供ではないのは、こうやって何度か留守番の相手をする間に理解していた。

 ジェイドは子供特有の騒がしさは苦手としていたから、彼でなければ何度も相手など出来なかっただろう。

 だが、だからと言って大人びている訳でもない。現に、こうしてさっきから珍しそうに見詰めている様は子供の好奇心そのままだ。いつもは熱心に本を読んでいるのに、今日は会ってからずっと眼鏡を見詰めている。――つまりは、ジェイドの顔を。

「じぇーどは、どれくらいめがわるい?」

 漸くぽつりと、小さなけれどはっきり聞こえる声で問い掛けて来たのに、苦笑する。

 ジェイド自身がその世界を想像でしか理解出来ないように、子供とっては視力の低下など、到底理解出来ないことかもしれない。

「ええと、そうですねぇ…眼鏡がないと、遠くのプラチナ様の顔がよく判らないくらい、でしょうね」

「これくらい?」

 床に直に座るジェイドの隣に座ったプラチナが身を乗り出すのに、そっと微笑み返して。

「これくらい傍なら、ちゃんと見えますよ」

 眼鏡がなくっても。

 膝の上に抱き上げてそう告げれば、プラチナも珍しく微笑み返して来た。

「じゃあ、ずっとそばにいる」

 ぎゅうと小さな手が幼い力でジェイドの手を握るのを、そのまま受ける。

「かおがちゃんとみえるように、そばにいる」

 きっと、眼鏡があれば遠くでも顔は判る、ということは頭から抜けているだろうし、今はともかく、ずっと傍に居ることなんて無理だということも理解出来ていないだろうけど。

「……判りました。約束ですよ、プラチナ様」

 そう言えば、プラチナが嬉しそうに笑うので。

 きっとこの優しい気持ちが、しあわせなのだろうなと柄にもないことを考えた。

41.名前のない関係

※『JPパラレル日記リレー』の、『隣のお兄さん』(作家と学生)設定です。

 部屋が隣同士というのはちょっと魅力的だ、と不意に思った。

 別にほぼ毎日(というか毎夜)ベランダで夜のお茶会と称して会っているし、用があるなら隣りなのだから直接部屋に行けばいいから、隣りという位置は今更どうということもないのだが。

 壁を一つ隔てた向こうで、自分と同じように彼も眠るかと思うと、不思議な、そして何か新鮮な感慨があった。

 ベッドに入って目を閉じる前に、壁に手を当てる。

 特にたいした意味はない。彼の部屋が隣だと知ってから時折する、儀式的な何か。

 ついさっき別れたはずの彼が、その向こうに居る。

 その眠りを思う。穏やかであればいいと、出来れば自分の夢を見ていて欲しいなんて、ちょっとした願いのようなものを込めてみる。

 らしくなく、人の眠りについてまで、考えている。

 目が覚めた時も、しばらく壁に背を付ける時もあって、その時降って湧いた思考に唇を撓らせて、咥えた煙草のせいでもなく苦く笑った。

 壁越しに背中合わせ、なんてちょっとロマンチックじゃありません?

 ――なんて考えている、自分が一番ロマンチストだ。