8.

 彼はステアリングを両手でぐっと一度強く握りしめ、ひとつ、深いため息を肺の底から吐き切ってから。

――ところで工藤くん、僕たちはまた共に事件を解決したわけだけど」

 そう、今までに何度か聞き覚えのある言葉の出だしを、口にした。

 へ、と思わず口からこぼれる。鳩が豆鉄砲を食ったような間抜けな顔をしている自覚があった。だが頭の中は充分に混乱している。何故いま、その言葉を耳にするのか。混乱しつつも頭はめまぐるしく記憶を遡って、ぱっと視界が開けたみたいに初めて聞いたその時の情景が脳裏に浮かぶ。

 その続きの言葉は知っている。知っているけれど、今のこの工藤 新一の姿の場合、洒落にならない台詞になってしまう。いや、コナンへ向けての方が、他の追随を許さないほど問題発言なのは確かなのだけれども。

 まさか、言うつもりなのか。――今、ここで?

 いや待て、待ってくれ。呆気にとられていた状態から急激に焦りを見せた新一よりも速く。

「僕たちはセックスをするべきだと思うけど、どうかな?」

 わざとらしいほどの、春の木漏れ日を含んだそよ風のように爽やかな笑顔をあの時のように向け、彼ははっきりと言い切った。